2014/07/26

高野秀行「謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア」 極上のノンフィクションであり、エンターテイメントでもあるルポタージュ

謎の独立国家ソマリランド


高野秀行「謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア」を読み終えました。

各方面から絶賛の声がたくさんあったので、読む前から面白いだろうなあとは思っていたのですが、その期待のハードルをやすやすと越えてくれました。500ページほどある大作なのに、読み始めると止まらず、数日で一気読みしてしまったほど。

これ一冊を読むと、以前日本の自衛隊も海賊退治に出動したことでおなじみのアフリカ東部の国、ソマリアのリアルな現状がわかるのみならず、アフリカやイスラム教、氏族社会(部族社会とは異なるもの)、民主主義の可能性などなどについても新たな視座がもてることうけあいです。

ノンフィクションではあるのですが、へたな冒険小説やファンタジーなんかよりよっぽどワクワクしながら読めてしまいます。



Amazonの内容紹介とも目次を引用しておきます。

内容紹介
第35回(2013年)講談社ノンフィクション賞受賞
第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞
BOOK OF THE YEAR2013 今年最高の本 第1位(dacapo)
本屋さん大賞ノンフィクション部門 第1位(週刊文春)
西欧民主主義敗れたり! ! 著者渾身の歴史的<刮目>大作 終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている独立国があるという。果たしてそんな国が存在しえるのか? 事実を確かめるため、著者は誰も試みたことのない方法で世界一危険なエリアに飛び込んだ──。世界をゆるがす、衝撃のルポルタージュ、ここに登場!

プロローグ 地上に実在する「ラピュタ」へ
第1章 謎の未確認国家ソマリランド
1 ラピュタへのビザはどこで取得できるのか
2 ソマリ人は傲慢で、いい加減で、約束を守らず、荒っぽい
3 市場に札束がごろごろ
4 動物だらけの遊牧都市
5 世界でいちばん暑い町
6 海賊に拉致されたドイツ人と刑務所の海賊
第2章 奇跡の平和国家の秘密
1 ソマリランド観光案内
2 天変地異には要注意
3 知られざる覚醒植物カート
4 ソマリランドはなぜ治安がいいのか
5 ワイルド・イースト
6 だいたいソマリランド最高峰登頂記
7 ソマリランドが和平に成功した本当の理由
8 独立は認められないほうがいい?
9 「地上のラピュタ」は、ライオンの群れが作る国家
第3章 大飢饉フィーバーの裏側
1 ソマリア三国志
2 北斗の拳を知らずしてラピュタは語れない
3 世話役はカートの輸出業者
4 被差別民の意見
5 ハイエナには気をつけろ
6 アル・シャバーブの影
第4章 バック・トゥ・ザ・ソマリランド
1 奇跡の政権交代
2 ソマリの超速離婚
3 血の代償
4 ワイヤッブの裏切り
第5章 謎の海賊国家プントランド
1 海賊の首都ボサソ
2 氏族の伝統が海賊を止められない理由
3 籠の中のカモネギ
4 プントランドも民主主義国家?
5 ソマリランドの「宿敵」はこう語る
6 世紀末都市ガルカイヨ
7 謎の源氏国家ガルムドゥッグ
8 史上最大の作戦
9 続・史上最大の作戦
第6章 リアル北斗の拳 戦国モガディショ
1 モガディショ京都、二十年の大乱
2 世界で最も危険な花の都
3 剛腕女子支局長ハムディ
4 旧アル・シャバーブ支配区を見に行く
5 完全民営化社会
6 現場に来て初めてわかること
7 カートとイスラム原理主義
8 アル・シャバーブを支持するマイノリティ
9 アル・シャバーブはマオイスト?
10 すべては「都」だから
第7章 ハイパー民主主義国家ソマリランドの謎
1 戦国時代のソマリランド
2 「地上のラピュタ」に帰る
3 アフリカTV屋台村
4 ソマリランド和平交渉の全てを知る長老に弟子入り
5 ソマリの掟「ヘール」の真実
6 ソマリ人化する
7 世界に誇るハイパー民主主義
8 伊達氏の異能政治家・エガル政宗の恐るべき策謀
9 地上のラピュタを越えて
エピローグ 「ディアスポラ」になった私

今、ソマリアは平和な自称独立国家の「ソマリランド」と海賊が国の主要産業になっている海賊国家「プントランド」、そして現在進行形で内戦が続いている南部ソマリアの3地域に分かれています。

著者はそれぞれの国を訪問し、なにが違い、なにが同じなのかを先入観に囚われることなく現地の人達に直接話を聞いて確かめようとするのですが、そこにあるのはたんなる「未開の後進国」ではなく、とても合理的なソマリ人による、西洋の常識とはかけ離れてはいても、秩序だった驚きの世界があるのです。

読みどころはたくさんあるのですが、印象に残ったところを一つだけ挙げると、

著者は、どうして同じソマリ人なのにソマリランドでは平和が実現して、南部ソマリアでは相変わらず内戦が続いているのかについて不思議に思い、その答えを知るためにいろいろな人に聞いたり、調べたり考えたりするのですが、あるソマリランドのソマリ人はこんなことを言うのです。


「俺はね、ときどき、ソマリランドは今の状態がいちばんいいのかもしれないって思うんだよ」
「今の状態って、国際社会に認められなくて援助も投資も来ないっていう状態?」
「そうだ。南部がめちゃくちゃのままで、ソマリランドは平和になった。植民地とかヘール(掟)とかいろんな原因があるけど、もう一つの理由はソマリランドにカネになるものが何もなかったことだと思うよ」
ワイヤッブが言うには、ソマリランドはもともと産業なんて牧畜しかない。首都のハルゲイサも一時は廃墟になった。
こんな貧しくて何もない国だから、利権もない。利権がないから汚職も少ない。土地や財産や権力をめぐる争いも熾烈でない。
「でも、いったん国際社会に認められたらどうなる?援助のカネが来て汚職だらけになる。外の世界からわけのわからないマフィアやアンダーグラウンドのビジネスマンがどっと押し寄せる。そのうちカネや権力をめぐって南部と同じことになるよ・・・」


これは、以前読んだ「独裁者のためのハンドブック」にも似たようなことが書いてあって、独裁者が生まれやすい国というのは、石油などの資源が豊富な国や、国際社会から潤沢な援助が受けられる国のような、一見貧しい国より恵まれた条件を持つ国である場合の方が多いので、彼の意見には説得力があると思いました。

その他、読みどころ満載の極上のエンターテイメントですので、気になった人は是非読んでみることをオススメします。

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